PDD(Proventricular Dilatation Disease/腺胃拡張症)について

はじめに
PDD腺胃拡張症)は2020年10月の現時点において治療法の確立されていない致死性の高い疾患です。

主な症状は1つ目の胃である腺胃が膨らみっぱなしの機能不全に陥ります。

2008年にはPDDを発症したコンゴウインコから病因物質としてトリボルナウイルスが同定され、密接に関係することが裏付けられました。

すべてのPDDトリボルナウイルスを原因とするわけではありませんが、鳥ボルナ病に多い症状の1つです。

以下、ここではPDDについて掘り下げます。

トリボルナウイルスについては別記事にまとめております。
鳥ボルナ病|オウムやインコのトリボルナウイルス感染症 鳥ボルナ病|オウムやインコのトリボルナウイルス感染症
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PDD(Proventricular Dilatation Disease/腺胃拡張症)について

PDDの要約
PDDとは Proventricular Dilatation Disease の頭文字を繋いだ略名です。

Proventricular 腺胃
Dilatation 拡張
Disease 疾患

すなわち腺胃拡張症です。


但しPDDは腺胃に限らず、砂嚢、十二指腸、副腎など他の臓器が肥大するという報告もあります。


鳥には2つの胃があります。

腺胃(前胃)と砂嚢(筋胃)です。

腺胃は消化腺で覆われており、消化酵素酸性消化液を分泌して化学的な消化を行います。

筋胃とも呼ばれる砂嚢は厚い筋肉で物理消化を行います。焼き鳥で言うところの砂ずりです。
PDD(腺胃拡張性)腺胃神経機能不全症です。

腺胃が拡張して機能不全に陥る状態になります。

拡張とは膨らみっぱなしになる状態です。

腺胃の収縮を司る神経がダメージを受けて収縮力が失われる腺胃は拡張します。

そのダメージにトリボルナウイルスが関与している場合鳥ボルナ病におけるPDDとなります。
主にオウムやインコで確認されている致死性の高い疾患です。

現在のところ確立された治療法はありません。

腺胃拡張は外見からは判断できません。

診断はレントゲンで行います。
2008年にはPDDを発症したコンゴウインコから病因物質としてトリボルナウイルスが同定されました。

トリボルナウイルスによる感染症を鳥ボルナ病と呼びます。

PDDの原因すべてがトリボルナウイルスとは限りませんが、鳥ボルナ病に多い症状の1つであり、密接な関係が裏付けられています。

トリボルナウイルスについては別記事にまとめております。
鳥ボルナ病|オウムやインコのトリボルナウイルス感染症 鳥ボルナ病|オウムやインコのトリボルナウイルス感染症

PDDの歴史

PDDの歴史

コンゴウインコ消耗性疾患

1970年代に南米ボリビアのサンタ・クルスから輸入された若いコンゴウインコ最初に症状が報告されました。

詳細な記録はないものの、同様の症状で死亡するコンゴウインコが少なからず存在したとされます。

1978年Macaw Wasting Disease(コンゴウインコ消耗性疾患)とされました。(Dr. Hannis L. Stoddard)

当時はコンゴウインコ特有の疾患だと考えられていました。

PDD/腺胃拡張症

1983年名称をPDD(Proventricular Dilatation Disease/腺胃拡張症)とされました。

トリボルナウイルスの同定

2008年7月PDDを発症したコンゴウインコから病因物質としてトリボルナウイルス(ABV)を同定。

米国のKistlerらとイスラエルのHonkavuoriらは、PDDを疾患した鳥からの新規ボルナウイルスの回収について個別に報告しました

この報告から短期間の間にさらに8件の研究でPDD陽性鳥類からABVが検出され、さらにその後も検出が続きます。

この発見は大きな転換点となり、ボルナウイルスならびにPDDの研究が加速しました。

トリボルナウイルスの検出

2009年には飼育下と野生下の80種からABVが確認されました。

アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリア、中東、南アフリカからも報告があり

日本でも2010年にPDDを発症した国産コキサカオウムからABVが検出されました。(Ogawa,Sanada)

Proventricular Dilatation Disease Associated with Avian Bornavirus Infection in a
Citron-Crested Cockatoo that Was Born and Hand-Reared in Japan

PDDの原因すべてがトリボルナウイルスとは限りませんが、鳥ボルナ病に多い症状の1つであることが確認されています。

PDDの感染種

PDDを確認された鳥種

2010年までにPDDを確認された種

オウム科

オカメインコ、タイハクオウム、ソロモンオウム、キバタン、シロビタイムジオウム、フィリピンオウム、オオバタン、アカビタイムジオウム、コバタン、モモイロインコ、アカオクロオウム、ヤシオウム

インコ科、ホンセイインコ科、ヨウム科

ダルマインコ、オオダルマインコ、オオホンセイインコ、ホンセイインコ

オオハナインコ

フトフムネアカゴシキ

ヨウム、ズアカハネナガインコ、ムラクモインコ、クロクモインコ、ネズミガシラハネナガインコ、クロインコ

キエリボタンインコ、コザクラインコ

ルリコンゴウインコ、キエリヒメコンゴウインコ、ベニコンゴウインコ、アオキコンゴウインコ、アカコンゴウインコ、アカビタイヒメコンゴウインコ、ミドリコンゴウインコ、コミドリコンゴウインコ、アカミミコンゴウインコ、ヒメコンゴウインコ、スミレコンゴウインコ、アオコンゴウインコ、およびハイブリッドコンゴウインコ

テツバシメキシコインコ、ゴシキメキシコインコ、オナガアカボウシインコ、アカビタイメキシコインコ、ニョオウインコ、ナナイロメキシコインコ、コガネメキシコインコ、シモフリインコ、クロガミインコ、イワインコ、ホオミドリウロコインコ、イワウロコインコ 

アオボウシインコ、コボウシインコ、キソデボウシインコ、キエリボウシインコ、キホオボウシインコ、サクラボウシインコ、キビタイボウシインコ、カラカネボウシインコ

ドウバネインコ、スミレインコ、アケボノインコ、メキシコシロガシラインコ 、シロハラインコ、ズグロシロハラインコ、ヒオウギインコ

ワキガカボウシインコ、ワタボウシミドリインコ、ハシブトインコ、ヒガシラインコ、マメルリハインコ

オウム目以外

カナリア Serinus canaria
カワラヒワ Carduelis chromis
ナガエカサドリ Cephalopterus penduliger
カナダガン Branta canadensis
ベニヘラサギ Ajaja ajaja
ハヤブサ Falco peregrinus
オオハシ Ramphastos sp
ヒゲゴシギ Lybius dubius
セキセイインコ

2010年時点において、セキセイインコのPDDは確認されていません。

PDDの感染経路

PDDの感染経路

病因物質を鳥ボルナウイルスとした場合

・主に、物理的接触による直接接触、糞便から経口への摂取、乾燥糞や羽埃からのエアゾル吸引の可能性が示唆されています。

・傷口からの水平感染も経路の可能性がある。

・PDD陽性のオカメインコペアを繁殖させた実験においての垂直感染率は高くはないという評価(AHNInc)

・鳥同士の長期にわたる密接な接触が必要

人為的な感染実験に成功

・ABV-4(PaBV-4|インコボルナウイルス4型)を接種したオカメインコとイワインコで罹患を再現。

潜伏期間

非常にばらつきがあり、実験条件下で1ヶ月以上を要するとされますが、最短で11日で確認されています。

PDDの検査および症状

PDDの検査方法
・検査はレントゲンによる目視で行います。

・ガスのみによる前胃の膨張は、典型的な PDD ではありません

・炎症疾患とされるが血液検査に殆どまたは全く変化を示さないことがよくある。

・カリフォルニア大学サンフランシスコ研究チームによると、PDD発症検体から62.5%(5/8)でABVが検出されました。
PDDの症状
腺胃の拡張
腺胃に限らず砂嚢十二指腸副腎など他の臓器が肥大するという報告もある。

・心外膜に青白い領域が見られることもある。

前胃と砂嚢に症状のある検体で他の臓器と比較した研究において
副腎89.3%、腸86.5%、心臓79.3%、脳/脊髄78.8%、食道/そ嚢72.1%、末梢神経71.4%、目66.7%、皮膚25.0%
(1995 Shivaprasad, H. L., et al.)
・顕著な体重減少、嘔吐/吐き戻し、および未消化の食物の存在。

・重金属中毒症と似た症状でもある。

・飢えた鳥で見られるものと類似する場合、消化管の吸収不良に関連していると考えられる。

・消化不良で未消化便がみられる。

・ペレット食の場合、未消化便の確認が種子食と違ってわかりにくい。

・食物が体腔内にこぼれて腺胃壁が破裂し、腹膜炎を引き起こす可能性がある。

・PDDの臨床徴候を示さずに突然死亡した鳥に重大な肉眼的病変が無い場合もあります。

・胸筋の萎縮。これは吐き戻しを癖にした個体でも見られる。

PDDの治療および対処療法

PDDの治療

PDDの治療

・現時点で有効とされる治療方法は確立出来ていません。

・不可逆的な神経損傷や胃損傷は文字通り元に戻すことは出来ない。
PDDの療養食

対処療法としての食事

要因はどうであれ、発症時には対処療法として消化酵素と消化しやすい餌が推奨されます。

・消化しやすく高エネルギーの餌が効果的。

・種子、ナッツ、リンゴなど果物の皮は消化が難しい。

・初期段階であれば、繊維質の高い野菜が有益である可能性も示唆されている。

・ラウディブッシュにはPDD処方用のペレットが存在する。

・フォーミュラも有効。

・消化酵素を餌に足すことも有効。

・楽しみのない餌がストレスとなって進行を加速させる懸念もあります。

拡張と肥大の違い

・拡張/拡大とは臓器そのものが大きくなっている状態。

・人の心拡大(心臓が拡張)だと、心臓は収縮する力が低下すると徐々に部屋が拡大していきます。



・肥大とは外壁が厚くなっている状態。

・人の心肥大(心臓が肥大)だと、心臓の内側に向かって筋肉の壁が厚くなる状態です。

・レントゲンで肥大がわかることはありません。

・心不全の前段階です。

肥大と拡張の違い

・タイで多いPDDとボルナウイルスの検出評価実験
First detection and characterization of Psittaciform bornaviruses in naturally infected and diseased birds in Thailand


参照