Psittaciformes Psittacidae Pionites

シロハラインコ属の分類と総合的な内容とし、種については別記事で。

目次
本文が長くなるため要点だけで短くまとめておきます。
※本文中の現時点=2022年2月
その動き
ぬいぐるみのような容姿から繰り広げられるエネルギッシュで滑稽な動きは愛嬌と魅力に満ちたシロハラインコの仲間たち。
おそらく一般的に想像されるであろうインコ像とは一線を画す行動をします。
分布域

主に亜熱帯の南米アマゾン盆地に分布します。
概ねアマゾン川を挟んで北側のズグロシロハラインコと南側のシロハラインコに大別されます。
日本人に馴染み深い九州と南米大陸は形が似ているのでその地理に重ねるとイメージしやすいでしょうか。
ズグロシロハラインコは、北九州市や久留米あたり。
シロハラインコは概ね北九州・久留米・熊本・大分を四方に囲ったあたり。
分布域には重複圏があり、個体によるグラデーションもあります。
なお、九州と南米大陸の形が似ているのは偶然ではなく地形学的な根拠があるそうな。
リンネ式階層分類
生物の分類とは人が理解しやすいように区別してまとめることです。
それを学問としてアリストテレスの時代から今日に至るまで追求され続けています。
多岐にわたる膨大な学問で、1つの生物に対して多角的な捉え方があります。
ここでは伝統的に親しまれているリンネ式階層分類を前提にしています。
基本は7層の階級(界門鋼目科属種)に割り当てて分類します。
シロハラインコ属の分類
シロハラインコの仲間たちは
動物界 脊索動物 鳥綱 オウム目 ヨウム科 シロハラインコ属
に分類されます。
※鳥綱と鳥類は同じ意味
この6つの階層の下に種、さらに種によってはその下層に亜種があります。
それらの名称が種名および亜種名です。
亜種名は種名spp.と表記されることもあります。
シロハラインコ属の名称
シロハラインコ属は正式な和名、すなわち標準和名です。
英名ではCaique(カイキ、カイク、カイクー)です。
先住民族語の旧Tupi語に由来した名称で、意味は後述します。
世界中で通用する共通名としてはラテン語をベースにした学名が用いられます。
学名は太字斜体で表記されます。
シロハラインコ属の学名はPionites(ピオニテス)です。
アケボノインコ属Pionusに似ているという由来です。
鳥類の分類|IOUとIUCN
鳥類の分類を取り決める世界的な権威は複数存在し、各々で多少の違いがあります。
中でも下記の2つがその頂点だと認識しています。
●IOU(国際鳥類学者連合|International Ornithologists’ Union)
●IUCN(国際自然保護連合|International Union for Conservation of Nature)
IOUによる鳥類一覧IOC World Bird Listが事実上の世界標準で、ここでは便宜上IOCと略します。
※IOUは以前IOC(International Ornithological Committee)と呼ばれていました。
IUCNは絶滅危惧種のRedList(レッドリスト)を取り決めている機関です。
鳥類に関してはBLI(BirdLife International)が担当しています。
私のサイトではIOCに準拠しつつ種によっては例外的にIUCNを優先しています。
組織の成り立ちとして分類変更のテンポがIUCNは早いためです。
分類の違いは絶滅危惧種の保全といった観点では非常に大きな違いになります。
レッドリストやワシントン条約の登録単位は種です。
亜種が絶滅の危機であろうとも絶滅危惧種にはなりません。
レッドリストはIUCNが定めているため、そういった観点での分類変更は慎重なIOCよりも柔軟です。
シロハラインコはその典型です。
一般流通するオレンジ腿シロハラインコが絶滅危惧レベルの高い緑太腿のシロハラインコの脅威になるためです。
とはいえ分類変更は容易に出来るものではなく根拠となる研究には時間も掛かります。
必ずしもIOCがIUCNを追従するわけではありませんが、ここではIUCN版を採択しています。
シロハラインコ属に分類される全種
シロハラインコ属には亜種を含めて5種類が分類されています。
- ズグロシロハラインコ|頭黒白腹
※シロハラインコ属における最初の模式種 - ニシズグロシロハラインコ|西頭黒白腹
※全体に淡く、特に太腿の黄色が目立つ西部個体群 - シロハラインコ|白腹
※太腿の緑色が目立つ。小鳥商名グリーンタイツ - キモモシロハラインコ|黄腿白腹
※太腿の黄色が目立つ - キソメシロハラインコ|黄染白腹
※尾羽根の黄色が目立つ
現時点ではこれらの分類上の割振りがIOCとIUCNで異なります。
2014年2月にIUCNが分類変更されたためです。
なお、一般流通種はズグロシロハラインコとキモモシロハラインコ、および少数のシロハラインコです。
IUCN版シロハラインコ属
IUCNにおける2014年改定後のシロハラインコ属の分類は4基亜種+1亜種で構成されています。
- ズグロシロハラインコ
Black-headed parrot
Pionites melanocephalus
Linnaeus, 1758- ズグロシロハラインコ(基亜種)
Black-headed parrot
Pionites melanocephalus melanocephalus
Linnaeus, 1758 - ニシズグロシロハラ(亜種)
Black-headed parrot ssp.(通称 Pallid Parrot、Pallidus)
Pionites melanocephalus pallidus
Linnaeus, 1758
- ズグロシロハラインコ(基亜種)
- シロハラインコ(基亜種)
Green-thighed parrot
Pionites leucogaster
Kuhl, 1820 - キモモシロハラインコ(基亜種)
Black-legged parrot
Pionites xanthomerius
Sclater, PL, 1858 - キソメシロハラインコ(基亜種)
Yellow–tailed parrot
Pionites xanthurus
Todd, 1925
IOC ver.14版シロハラインコ属
IOC World Bird Listの現時点での最新版version14.2において2基亜種+3亜種で構成されています。
- ズグロシロハラインコ
Black-headed Parrot
Pionites melanocephalus
Linnaeus, 1758- ズグロシロハラインコ(基亜種)
Black-headed Parrot
Pionites melanocephalus melanocephalus
Linnaeus, 1758 - ニシズグロシロハラ(亜種)
Black-headed Parrot ssp.(通称 Pallid Parrot)
Pionites melanocephalus pallidus
Linnaeus, 1758
- ズグロシロハラインコ(基亜種)
- シロハラインコ
White-bellied Parrot
Pionites leucogaster
Kuhl, 1820- シロハラインコ(基亜種)
White-bellied Parrot
Pionites leucogaster leucogaster
Kuhl, 1820 - キモモシロハラインコ(亜種)
White-bellied Parrot ssp.
Pionites leucogaster xanthomerius
Sclater, PL, 1858 - キソメシロハラインコ(亜種)
White-bellied Parrot ssp.
Pionites leucogaster xanthurus
Todd, 1925
- シロハラインコ(基亜種)
シロハラインコ属に分類される種と亜種
また、分布域には重複圏があり、飼育下でもハイブリッドが古くから存在します。

それぞれの種についての詳細は別記事、ここではシロハラインコ属の総合的な内容とします。

Black-headed parrot
Pionites melanocephalus

Green-thighed parrot
Pionites leucogaster

モシロハラインコについて
Black-headed parrot
Pionites xanthomerius
キソメシロハラインコについて
Yellow-tailed Parrot
Pionites xanthurus
鳥類史にはズグロシロハラインコP. l. melanocephalus が先駆けて17世紀の1758年に登場しました。
分類学の父、カール・フォン・リンネCARL VON LINNÉによるものです。
1758年の日本は第9代将軍、徳川家重による江戸時代。
そこから62年後の1820年にシロハラインコP. l. leucogasterが登場します。
ドイツのハインリヒ・クールHeinrich Kuhlによるものです。
彼の名を冠した動物も少なくないですが、オウム目でとなるとKuhl’s lorikeet(ムスメインコ Vini kuhlii)でしょう。
ジャワ島へ赴いた際に肝臓感染症を患い24歳で急逝しました。
その後は
1856年 P. l. xanthomerius キモモシロハラインコ
Philip Lutley Sclater フィリップ・ラトリー・スクレーター(英)
1889年 P. m. pallidus ニシズグロシロハラインコ
Hans von Berlepsch ハンス・フォン・ベルレプシュ(独)
1890年 Pionitesが属分類に
Ferdinand Heine フェルディナンド・ハイネ(独)
1925年 P. l. xanthurus キソメシロハラインコ
Walter Edmond Clyde Todd ウォルター・エドモンド・クライド・トッド(米)
へと続きます。

シロハラインコ属の最初の飼育記録は1751年。
イギリス鳥類学の父とも呼ばれるジョージ・エドワーズ(George Edwards 1694-1773)によるものです。
彼はロンドンのバーソロミューフェアBartholomew Fairで沢山の鳥を購入しました。
日本で言うところの蚤の市(近年はフリーマーケット)。
その中には当時とても珍しい鳥も沢山いて、それらをモデルに次々と描きました。
そして、イラスト図鑑「珍しい鳥の自然史A natural history of uncommon birds (1743-1751)」を作成。
ロンドンの英国王立内科医大Royal College of Physiciansに寄託されました。
モデルはインコやオウムに限らずですが、インコだけでも沢山の種が描かれています。
google画像検索 George Edwards parrot
上記の絵はその1枚で、紛れもなくズグロシロハラインコが描かれています。
ただ、この絵の解説には
The White-Breasted Parrot
とあります。
ムナジロウロコインコの英名なので腑に落ちず、疑問になるのですがー
おそらく発端はWhite-Breasted Parrotは種名の意図ではなく胸が白いインコだったのではないかと推察しています。
さらに、絵の下部にはこの鳥の名称として
Psittacus viridis minor Mexicanus
La Pione à couronne blanche
と記されており、さらに
これは当時の学名とフランス語でメキシコシロガシラインコです。
こちらに関しては、深くは調べれてはいないものの
アケボノインコ属Pionusとシロハラインコ属Pionitesはどちらも同じ命名者で、ドイツの鳥類学者J.G.Wagler(Johann Georg Wagler )によるものです。
また、100年ほど前の書に
White-capped Caique シロガシラインコ
White-crowned Caiqu メキシコシロガシラインコ
というのもあり、単純に分類や種名の把握が雑だったのかなとも想像しつつ、追々また調べ直します。
最初の飼育と説明されている部分についても、蚤の市で買った数や種が多すぎるため、活鳥ではなく剥製なのではないかという疑念もあります。

日本にズグロシロハラインコが輸入されたのは、戦後初の記録としてはおそらく1961年2月(昭和36年)。
2000年頃には雑誌への掲載がありますが、本格的に人気に火が付いたのは2005年前後あたりから。
平成19年/2007年に発行された誠文堂新光社の愛鳥専門誌コンパニオンバード第7号の表紙をシロハラインコが飾り、これをキッカケに知った方も少なくないように感じます。
2003年あたりにオランダで発生した鳥インフルエンザは飼鳥流通に大打撃をもたらしました。
それは今も尾を引いています。
以来オランダからベルギーにシフトすることになりました。
2005年にはコバタンのサイテスI類登録など、この時期は結構な激動です。
Caiqueは先住民語族Tupiトゥピ語を語源としており、水鳥あるいは水の上を滑る者といった意味です。
小振りでガッチリとした体躯がトルコ船を彷彿させることからの由来という説が強いとされます。
ここでいうトルコ船とは、エーゲ海やイオニア海での伝統的な木製の小さな商船のことです。
caïqueと表記され、 ギリシャ語ではκαΐκι、トルコ語ではkayıkと表記されます。
トルコ船を由来とする説が正当であるとして、体躯なのか水の上を滑る者なのか。
水の上とすれば、濡れた葉で滑りながらゴシゴシしている様子でしょうか。
いずれにしてもこの由来については信頼に値する裏付けが弱く、調べ直し中です。

Amusement on the Caique – Fausto Zonaro|MYARTPRINTS
特に古い書籍などではWhite-Bellied Caiqueといった名称をよく目にします。
White-Bellied Parrotと標準英名を改められたのは1966年頃からです。
1966年にMeyer de Schauensee氏が提唱した標準英名によってCaiqueはParrotへ変更されました。
シロハラインコの種名変更というわけではなく、全体としての命名規約を提唱したものです。
オウム目では名称から、Amazon、Conure、Caique、Praquetを全廃し、Macaw、Parrot、Prrotlet、Parakeetに統一するというものです。
マイヤーの新命名規約は大きな波紋となり、種によっては現代においても留意されています。
シロハラインコ属の学名Pionitesの語源はギリシャ語で、Pionとitesの2つにわけて意味を繋げます。
pīon , pinos → 太った、肥えた、ぽっちゃり
itēs → 似ている
太った似ている、となりますが、何に似ているのかというと…

アケボノインコ属の学名Pionusの由来はシロハラインコ属に直接関係します。
pīon から pinos , pionias , pionus に変化してPionusになりました。
すなわちPionitesとは太った体型のアケボノインコ属に似ているという意味合いです。
二属とも柔らかい表現だとずんぐりむっくりでぽってりした可愛らしいシルエットを比喩した命名由来です。
この二属PionusとPionitesはどちらもドイツの鳥類学者J.G.Waglerによる命名です。
100年ほど前の書に現在の分類ではアケボノインコ属のシロガシラインコとメキシコシロガシラインコがWhite-capped Caique、White-crowned Caiquと記載されていました。
分布域についてはそれぞれの種の記事に詳細を記しますので概略のみ。
シロハラインコ属の分布域は、南アメリカ大陸の南米アマゾン盆地です。
気候は主に亜熱帯。
アマゾン川流域を中心に広がっており、アマゾン川を隔てた南北で概ね棲み分けられています。
北側のズグロシロハラインコと南側のシロハラインコに大別されます。
日本人に馴染み深い九州と南米大陸は形が似ているのでその地理に重ねるとイメージしやすいでしょうか。
ズグロシロハラインコは、北九州市や久留米あたり。
シロハラインコは概ね北九州・久留米・熊本・大分を四方に囲ったあたり。
なお、九州と南米大陸の形が似ているのは偶然ではなく地形学的な根拠があるそうな。
原産国では多数の国に跨るズグロシロハラインコに対し、シロハラインコはブラジル、ペルー、ボリビアの3ヶ国に留まります。
人間の線引きですが、国際取引においてこの違いは大きな差になります。
分布域には重複圏があり、個体によるグラデーションもあります。
飼育下ではハイブリッドも古くから存在します。
金の鳥
国際取引の規制に亜種の区分は無いため、



ここでの分類はIUCN/BLI2022.2現在に則ったものです
mtDNA解析などの登場によってオウム目の分類も少なからず再編され、現在も更新は続いています。
しばらくは分類の統廃合ばかりでしたが、最近は亜種の昇格や再細分化も増えています。
その背景として絶滅危惧種種の保全の観点もあります。
よく絶滅危惧種が云々とありますが、基本的にインコは殆どが絶滅危惧種です。
もはや絶滅危惧種なのは当たり前で、危急種であるかどうかが問題になります。
亜種も含めた全体でそこそこの数がいたとしても、亜種が絶滅危急かもしれません。
そして亜種だけを国際法で規制することは基本的に出来ません。
シロハラインコもそんな種の1つとして細分化を後押しされました。

シロハラインコ属と縁の深いアケボノインコ属ですが、分子系統学においては話が変わります。
近年は飛躍的に分子生物学的研究による遺伝子分析が発展しています。
オックスフォードアカデミックに発表された2006年の研究論文で、新世界産インコArinaeのDNA配列が解読されています。
そして、シロハラインコ属はヒオウギインコ属と密接した関係にあることが明らかになりました。
さらにシロハラインコ属はコンゴウインコ&コニュアといった所謂コニュアの主流と同じクレードです。
アケボノインコ属はボウシインコ属、ワキアカボウシインコ属、ヨツボシミドリインコ属と密接な関係のあるアマゾン主流クレードです。
シロハラインコ属の親類はヒオウギインコ属で、アケボノインコ属とはもはや他人の空似といったところでしょうか…


分布域についてはそれぞれの種の記事に詳細を記しますので概略のみ。 シロハラインコ属の分布域は、南アメリカ大陸のアマゾン川流域を中心に広がっており、アマゾン川を隔てた南北で棲み分けられています。 北側がズグロシロハラインコ、南側がシロハラインコです。 原産国では多数の国に跨るズグロシロハラインコに対し、シロハラインコはブラジル、ペルー、ボリビアの3ヶ国に留まります。 人間の線引きですが、国際取引においてこの違いは大きな差になります。。
分布域についてはそれぞれの種の記事に詳細を記しますので概略のみ。
シロハラインコ属の分布域は、南アメリカ大陸のアマゾン川流域を中心に広がっており、アマゾン川を隔てた南北で棲み分けられています。
北側がズグロシロハラインコ、南側がシロハラインコです。
原産国では多数の国に跨るズグロシロハラインコに対し、シロハラインコはブラジル、ペルー、ボリビアの3ヶ国に留まります。
人間の線引きですが、国際取引においてこの違いは大きな差になります。
アマゾン川の水銀問題

あ
2022.1月現在の分類はIOC版とIUCN/BLI版で異なり、ここではIUCN/BLI版を採用しています。
シロハラインコたちの動きはヒインコの仲間を彷彿させます。
どちらもその容姿はぬいぐるみのようでいて、挙動はインコらしからぬものです。
複数羽でのじゃれ合いはプロレスのような派手なパフォーマンスで沸かせます。
とはいえ、分布域は大きく異なり、食性も蜜吸ではなく、系統分類も大きく異なります。
日本では2010年頃からペットバードとしての人気が急速に高まりを見せています。
流通するシロハラインコの殆どはペルーやボリビア側に分布するキモモシロハラインコです。
床で転げ回る様子などは野生下において樹上生活を主としているとは思えないような動きにも感じますが、
やたらと布などでゴシゴシする仕草は熱帯雨林や雲霧林において濡れた木々で身体を洗う習性でしょう。
構造形態的な特徴としては、薄い羽毛、短距離飛行用の翼、強い脚力、など。
羽毛の薄さは濡れやすくも乾きやすく、飛行距離や脚力の特徴とも連動した適応進化なのでしょう。
平均的な体格の大きさは概ねズグロシロハラインコ < シロハラインコです。
個体によっては逆転しますが、ズグロシロハラインコの大型な個体がシロハラインコの一般的なサイズといったところです。
但し近年の繁殖個体はどちらもとても小さい傾向にあり、シロハラインコでさえ200gを越えない個体が当たり前になっているようです。